【シルクとわたし】第一章 Itoguchiとの出会い 美容ジャーナリスト 小田ユイコ
私のシルクとの出会いは、幼少期、蚕を自宅で飼っていたことから始まりました。私が3歳から暮らしていた東京の郊外、現在のあきる野市は、かつて絹織物の町として知られた八王子の北側に位置し、その頃は養蚕をしている家もありました。土地柄か、家の近くには大きく青々と茂った桑の木が。母は、知り合いの養蚕家から「お蚕さん」の幼虫を少しだけもらい受けてきて、私と弟にお世話係を任命。私たちはせっせと、桑の木から葉っぱがたっぷりついた枝を摘み取り、お蚕さんに与えたものです。
虫にそれほど抵抗がなかった私と、虫大好きな弟は、夢中でお蚕さんの成長の様子を見守りました。お蚕さんはおもしろいくらいに食欲旺盛で、大きな桑の葉っぱを端からきれいに弧を描くように食べていき、小さな体に収めていきます。目で見てわかるほど日に日に成長し、次第に愛着も。ずいぶん立派になったなと思ったある日、お蚕さんは天命を受けたかのごとく、自分を取り囲むように繭をつくり始めます。口から吐き出す1本の糸で、少し縦長の丸いシェルターをものの見事に構築。最初の内は一生懸命働くお蚕さんの様子が透けて見えるのですが、次第にシェルターが厚くなり、見えなくなっていきます。可愛がっていたお蚕さんと別れる寂しさとともに、生命の神秘と、その繭から取れる絹糸の価値を、子ども心に感じたものです。
大人になってシルクの生地が光沢があって美しいだけでなく、シルク成分が肌や髪にもいい!という美容の力を知るようになりました。しかし、なぜ美容成分として優れているかについては、深く考えてもみませんでした。シルク成分の美容パワーの秘密を知ったのは、ビューティの専門的な記事を書くようになってから。優れた保湿力に加え、肌の健やかさまで育むことを知り、正直驚いた記憶があります。それは、セリシンやフィブロインといったシルクならではのタンパク質が、ひとの肌が本来持っているうるおい、天然保湿因子NMFや細胞間脂質と似通っていることにありました。美容成分には植物由来や合成のものなど、優れたものがたくさんありますが、セリシンやフィブロインを含むのはシルク成分ならでは。それを知ったとき、ふと、栄養豊富な桑の葉っぱをむしゃむしゃと食べて、繭を精力的につくり上げるお蚕さんのことを思い出し、その特別な美容パワーに納得したものです。
肌を土台から立て直し、自らうるおう力を育ててくれるシルクの成分。私は子供のころにアトピー性皮膚炎を患い、大人になってからも体調や季節によってはあれやすい、敏感肌の性質を持っています。取材がらみで肌の遺伝子検査やバリア機能の検査を受けたところ天然保湿因子NMFを生み出す力や、バリアの要となる脂質が少なく、ゆらぎやすい肌質であることが明らかになりました。健やかな肌でいるためには、スキンケアで天然保湿因子や脂質を補うことが欠かせないのですが、シルク成分はとても相性がよいと感じています。
取材でさらに知ったのは「野蚕」=ワイルドシルクのすばらしさ。私が幼少期に飼った白い繭をつくる蚕は、絹糸のために品種改良された「家蚕」と呼ばれる種類。蚕は実はもともと野生で、「野蚕」は緑や黄色などの繭をつくります。そこから取れるシルク成分は保湿力が高く、紫外線や乾燥など、外的環境から守る力にも優れていることを知りました。近年では過酷な環境を生き抜く「野蚕」のシルク成分が注目され、化粧品にも配合されるようになりましたが、その多くは東南アジア原産の成分でした。
そんな折、出会ったのは国産の「野蚕」、みどりまゆのシルク成分をメインに配合したブランド『Itoguchi』。開発、販売する株式会社きものブレインは、なんと養蚕から製糸、成分の抽出、化粧品にするところまですべてを自社で行っています。取材させていただくことになり、おもむいたのは新潟県十日町市にある本社。十日町市は、十日町縮などで知られ、伝統的に良質な絹織物が生産される「シルクのまち」。周囲を山々に囲まれ、全国有数の豪雪地としても知られている地域で、雪があることによるほどよい湿度が絹に適しているそうです。そんなシルクのまちに本拠地を構えるきものブレインが熱心に取り組んでいるのが、難しいと言われるみどりまゆの養蚕。研究所を訪ねてみると、みどりまゆおたくともいうべき研究者が養蚕を担当。大学と連携・協力のもと長年の研究の末にたどりついた無菌環境で、みどりまゆの育成が行われており、惜しまぬ情熱と手間暇がかかっている現場を目の当たりにしました。そうして抽出されたみどりまゆのシルク成分は、美肌を育む成分のパラダイス! その成分のひとつ、セリシンのタンパク質構造は、肌の天然保湿因子NMFととてもよく似ていることがわかっています。またフラボノイドにいたってはなんと白まゆの10倍以上も含まれるそうです。紫外線のうちUVBだけでなくUVAもカットできるのは白まゆにはない力。窓越しや、曇りの日でも肌にダメージを与え、シミだけでなくシワやたるみを引き起こす原因であるUVA。天然のみどりまゆ成分で肌に負担をかけることなくUVAもUVBもカットできるのは、ありがたい限りです。
この希少なみどりまゆのシルク成分をメイン成分とするスキンケアシリーズ、『Itoguchi』。基本の4品、クレンジング、洗顔、ローション、クリームにはそれぞれ、みどりまゆのシルク成分を限界ギリギリまで惜しむことなく高濃度に配合されていて、シンプルなステップで肌を心地よく「シルク漬け」に。長年さまざまな化粧品の裏舞台を取材してきましたが、みどりまゆのシルク成分を活かしきる担当者の妥協なき開発魂には、特別なものを感じました。摩擦など余計な刺激を与えることなく十分な保湿感を得られ、乾燥しやすくゆらぎやすい私の肌も日に日に強くなっていくよう。乾燥や季節の変わり目の環境の変化、ストレスなどにもへこたれにくくなり、安定感のあるうるおいツヤ肌をキープしています。また肌の土台が整うことで、ハリもアップ。もうすぐ還暦を迎える年齢ですが、ここにきて透明感やハリに自信を持てるようになったのは、みどりまゆのシルク成分に出会ったおかげかなと思っています。
また、みどりまゆのスキンケア力、Itoguchiのシルク仕込みケアに興味を持った方に、一度使ってみていただきたいと思うのがシートマスク。1枚で化粧水、美容液、乳液、クリームのケアが叶い、まさに肌がシルクそのものになるような使い心地。1枚にItoguchiのスキンケアシリーズをラインで使用した場合の、約5倍のシルク成分が含まれていて、もう、うれしくなるばかりの潤い感。輝くようなツヤ・ハリとはこのことか! と感動します。
日本に脈々と根づく和装文化を背景に、シルク、着物産業を支え、みどりまゆによる新たなスキンケア提案を行うきものブレイン。社内を見学させていただくと、養蚕・シルク成分担当者やItoguchiの開発担当はもちろん、基幹事業である着物のアフターケアや縫製を行う部門まで、全社がシルク愛に満ちあふれています。スキンケアは毎日使うものだから、納得のいく使用感であるのはもちろんのこと、製品の裏側にあるフィロソフィーも感じたい。本来の美しさが息づく肌への「糸口」という願いが込められたItoguchiは、シルクの恩恵とともに、肌質や年齢へのネガティブな感情を払いのけ、肌へのゆるぎない自信を授けてくれます。
小田ユイコ
美容ジャーナリスト。
出版社勤務したのち、美容専門のフリーランスに。
35年間かけて、美容関連の取材、執筆を続けている。
現在は女性誌やWEBメディアで美容企画を担当。
美容の指南役、コスメ選びのアドバイザーも活動中。