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【シルクとわたし】第五章 シルクに身を委ねて ビューティエディター 新田晃代

 先日、久しぶりに帰省して写真の整理をしました。ふと目に留まったのは、赤ちゃんだった私を抱っこする母とのショット。色褪せた写真の中の赤ちゃんは母親の首元に巻かれたシルクスカーフを力任せに引っ張り、母親はそんなやんちゃな娘を愛おしそうに見つめています。
他界して20年以上経つ母は、「流行に左右されない上質なものを大切に長く使う」という信念を貫き、数枚のシルクスカーフを何年も大事にローテーションしていました。いちばんのお気に入りだったであろう写真のシルクスカーフは、私の東京の自宅にあります。端っこが少しほつれていますが、レトロな柄がむしろ新鮮で、手に取るたび上質なものが宿すエネルギー、そして愛着していた母の温もりのようなものを感じます。そういうわけで私にとってシルクは、身近でもあり、ちょっと特別な存在でもあるのです。

年齢を重ね、ラグジュアリーなメディアでお仕事する機会も増えたことで、“名品”と呼ばれる上質なアイテムが名品である所以、そしてそこに込められた作り手の想いなどに意識を向けるようになりました。それは、服やジュエリーに限らず、コスメに対しても同様に、です。ブランドが誕生した経緯や、ひとつのプロダクトが完成するまでの開発秘話などのさまざまな「ストーリー」に、胸が躍ったり、心が揺さぶられたりするのです。今ではそういうところが、この仕事の醍醐味だと思えるほどに。

「Itoguchi」に出会ったのは、2023年6月のこと。「みどりまゆBODY&HAIR モイストシャンプー」は、今では我が家のバスルームに欠かせない一軍選手ですが、正直なところ最初は、体も髪も顔も洗えるオールインワンシャンプーに対して、少し懐疑的なところがありました。洗い上がりの髪や顔は大丈夫なのかしら…?と。それでも職業病でしょうか、一度試してみないと気が済まず、当時ハイトーンだった髪を恐る恐る洗ってみたところ…、いい意味で予想を裏切られました。まったくきしまず、からまらず。そしてコンディショナーも要らない。顔もぬめりとは違うスベスベ感で覆われるような洗い上がりに。「なんか、すごくいいものに出会ったかも…!」そう感じて、シルクのもつパワーと「Itoguchi」というブランドに興味を抱くようになったのです。

 翌月、タイミングよく「Itoguchi」を製造する「きものブレイン」を取材する機会を得て、新潟県十日町市へ向かいました。7月初旬の十日町は、風が吹くたびに青々と育つ稲が波打つ広大な水田が美しく、ゆっくりと時間が流れるような長閑さが心地よく。そこで私は、十日町市が「消滅可能性都市」に選ばれていることを知りました。「消滅可能性都市」とは、人口減少の歯止めがかからず、将来的に消滅する可能性がある都市のこと。日本の人口減少、地方都市の過疎化・高齢化が問題になっていることを知っていても、「消滅可能性都市」というのは、あまりにショッキングな言葉でした。

 そんな十日町市を活性化させ、雇用を生み出すために、「きものブレイン」では、世界で初めて蚕を無菌室で人工的に育成することをスタート。そこで生産されているのは、野生種に近い希少な「みどりまゆ」。なんとも優しく美しい黄緑色をしているのですが、これは蚕の餌である桑の葉によるもの。その正体はポリフェノールの一種である「フラボノイド」なんですって。シルクの保湿成分「セリシン」も白繭よりも多く含まれているそうですし、白繭がUV-Bのみをカットするのに対し、「みどりまゆ」は、UV-AとUV-Bの両方をカットする効果をもっているのだとか。恐るべし、野生の力!

 「Itoguchi」のプロダクトには、そんな貴重で高機能な「みどりまゆ」の成分が限界値ギリギリまで高配合されています。予想外の使用感に感動した「みどりまゆ BODY&HAIR モイストシャンプー」でしたが、その後発売されたUVスプレーや介護の現場から生まれたプロテクトクリーム、そして待望のプレミアムスキンケアラインまで…、すべてのプロダクトに心地よい使用感がしっかり踏襲されています。汚れを落とすときも潤いで肌を満たすときも、シルクのヴェールで包み込まれるような安心感があり、そっと肌を委ねたくなるのです。とくに年齢を重ねて敏感に傾きがちな私の肌には、その優しさがありがたいかぎり。

 そして使うたびに「きものブレイン」の皆さんの信念や情熱が伝わってくるところが「Itoguchi」の何よりの魅力だと感じています。毎日のように新作が発売され、あふれんばかりのコスメが市場を賑わせていますが、作り手のストーリーや温度を感じとることができるブランドはごく一部。その温度感こそが、肌を潤わせるだけでなく、心までも満たす大切なブランドの核になります。十日町という美しい土地で生まれた「Itoguchi」というブランドに賭けられた想い、そしてプロダクトの素晴らしさが、ひとりでも多くの方に伝わることを切に願います。

「流行に左右されない上質なものを大切に長く使う」…そんな母の言葉を思い出しながら、今日も「みどりまゆ」のシルクコスメで全身のお手入れをして、母のシルクスカーフで髪を束ね、この原稿を書いています。

 

 

新田晃代
ビューティエディター。

大学在学中、編集アシスタントを経てフリーランスのエディターとしてデビュー。ラグジュアリー誌をはじめとする女性誌で美容企画を担当するほか、コスメやサプリメントのネーミングやコンサルティングも。日々トレンドをキャッチアップしながら、「本質的な美」とは何かを追究する。
植物好きが高じて、和ハーブライフアドバイザー、野草料理マイスターの資格を取得。

Instagramアカウント @akyntt

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